これから起こりうる核の脅威や自然災害から守る為に

コラム

Jアラート(全国瞬時警報システム)とは? 概要や受信時の避難行動を解説

世の中には「名前は知っていても中身は知らない」と言われる制度やシステムが少なくありません。その1つに「Jアラート」があります。ロシアのウクライナ侵攻を契機に緊張感が高まっている国際情勢の中、Jアラートの必要度が増していると言われます。しかしその割にはJアラートへの認識は進んでいないと言われます。

ここではJアラートの概要や仕組み、Jアラート発令時の避難行動、Jアラートが必要とされる背景を解説します。

Jアラートとは

Jアラートとは、「全国瞬時警報システム」とも呼ばれる緊急警戒情報伝達システムのことです。弾道ミサイル攻撃・地震・津波などの情報を対象地域の市区町村へ一斉同報することができ、2021年度末現在は全国1741市区町村が警戒情報伝達地域になっています。

このうち弾道ミサイル攻撃などに関する情報は内閣官房から、自然災害情報は気象庁から発令し、いずれも人工衛星・インターネット回線を介して市区町村の「Jアラート受信機」へ一斉同報し、そこから防災行政無線、テレビ、ラジオなどを経由して対象地域の住民に告知します。この告知と並行し、携帯電話キャリアを経由して携帯電話・スマートフォンのユーザにも「緊急速報メール」を送信します。

Jアラートの仕組みと伝達情報

Jアラートは通信衛星回線とインターネット回線、携帯電話回線などを介して対象地域の市区町村へ一斉同報し、そこから対象地域の住民に避難行動を促す仕組みです。具体的には次の通りです。

1.自然災害や武力攻撃の緊急事態が発生

2.自然災害の場合は気象庁が、武力攻撃の場合は内閣官房がそれぞれの緊急事態を確認

3.気象庁と内閣官房は確認した事態の緊急警戒情報をそれぞれ消防庁の「Jアラート送信機」へ発信

4.消防庁のJアラート送信機から通信衛星「スーパーバード2」を経由して緊急警戒情報が対象地域市区町村のJアラート受信機へ一斉同報

5.Jアラート受信機を経由して対象地域市区町村の防災行政無線、有線放送局、FMラジオ局、CATV局、コミュニティ放送局などのJアラート告知装置が自動起動

6.Jアラート告知装置は警報サイレンを鳴らした後、緊急警戒情報と当該市区町村の避難指示を放送

7.上記4―6と並行して消防庁のJアラート送信機は携帯電話キャリアの回線を経由し、対象地域の携帯電話機・スマートフォンに緊急警戒速報メールを配信

Jアラートで国民に伝達する緊急警戒情報は、消防庁の「全国瞬時警報システム業務規程」で定められており、2016年3月の一部改正では25項目に上っています。内閣官房と気象庁が確認・伝達する項目は次の通りです。

  • 内閣官房……弾道ミサイル攻撃、航空攻撃、ゲリラ・特殊部隊攻撃、大規模テロ、国民への緊急伝達が必要な「国民保護に関する情報」の5項目
  • 気象庁……緊急地震速報、大津波警報、津波警報、気象庁特別警報、記録的短時間大雨情報など20項目

また内閣官房が確認した武力攻撃事態は、次の2方式で国民に伝達されます。

  • 事前音声書換え方式……武力攻撃想定事態に対応してあらかじめ作成した音声ファイルを、消防庁のJアラート送信機に登録。内閣官房が当該想定事態を確認すると、Jアラート送信機へ当該音声ファイル起動指示信号を送信。Jアラート送信機が対象地域市区町村のJアラート受信機へ一斉同報
  • 即時合成音声方式……想定外の事態が発生し、時間的猶予がない場合は、内閣官房が当該事態に照らして即時作成した文字データを消防庁のJアラート送信機へ送信。Jアラート送信機が文字データを合成音声データに自動変換し、対象地域市区町村のJアラート受信機へ一斉同報

Jアラートを受信した時の避難行動

国は国民がJアラートを受信した時、Jアラートに引き続いて市区町村が発信する避難指示に従うこと求めています。その上で状況ごとに次の避難行動を推奨しています。

仕事等で屋外にいる場合

  • 内閣官房発の警報……近くにある鉄筋コンクリート造のビル、地下鉄駅舎、地下街などへ避難する。また近くにこうした避難場所がない場合は、頑丈な建造物の陰に身を寄せるか地面に伏せる。
  • 気象庁発の地震警報……建物の倒壊や落下物に注意を払いながらグラウンド、公園、小中学校の鉄筋コンクリート造耐震校舎などに避難する。
  • 気象庁発の大津波・津波警報……海岸線に対して直角に逃げる。または高台、高層ビルの屋上、津波避難タワーなどの高所へ避難する。

自宅にいる場合

  • 内閣官房発の警報……窓から離れた場所にある押し入れ、クローゼット、ロフトなどへ避難する。
  • 気象庁発の地震・大津波・津波警報……箪笥、本棚など倒れてくる可能性がある家具から離れる。また炊事等で火気使用中の場合は直ちに火を消す。

車を運転中の場合

  • 内閣官房発の警報……減速して道路の左側に停車し、窓を閉めてエンジンを切り、ドアロックをせずに車から退避する。その上で近くにある鉄筋コンクリート造のビル、地下鉄駅舎、地下街などへ避難する。
  • 気象庁発の地震・大津波・津波警報……減速して道路の左側に停車し、カーラジオ等で市区町村の指示を確認。それに従った避難行動をする。なお車から退避する時は窓を閉めてエンジンを切り、ドアロックをせずにおく。

Jアラートが必要とされる背景

Jアラートは必要とされる背景は、日本における災害と、近隣国の脅威にあります。日本は災害が多い国であり、これまでも地震や津波などの発生がたびたび確認されています。

またウクライナは隣国ロシアの侵攻を受けましたが、日本でも近隣国の侵攻を受ける可能性は十分あると見られています。特に警戒すべき国として挙げられているのが、中国、北朝鮮、ロシアの3国です。この3国への警戒感がJアラートの必要性を高めている背景と言われます。『令和3年版 防衛白書』によると、弾道ミサイル攻撃に関する3国の脅威は、概略次の通りです。

中国の状況

中国は過去30年間軍事費を増強しています。例えば同国の2021年度の軍事予算額は約1兆3600億元(約20兆3300億円)で、前年度比当初予算額6.8%の伸びです。同国の軍事予算額は毎年ほぼ2桁の伸び率であり、1991年度からの30年間で約42倍となります。この潤沢な軍事費を背景に大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、中距離弾道ミサイルなど多種の弾道ミサイルを保有しており、性能向上が図られています。一方、同国の海上・航空兵力は、尖閣諸島周辺を含む我が国周辺海空域における軍事的挑発活動を活発化しており、日中間の緊張感を一方的に高めています。また同国海軍艦艇は、我が国近海での洋上訓練活動を継続的に行っています。さらに尖閣諸島周辺においては同国海警船がほぼ毎日、我が国領海接近水域の巡航、領海侵入を繰り返しているとされています。

北朝鮮の状況

北朝鮮はこれまで6回の核実験を行った他、2016年度以降、70発以上の弾道ミサイル発射実験に成功し、10種類以上の弾道ミサイルを保有しています。そして技術的には核兵器の小型化・弾頭化を実現し、核弾頭搭載の弾道ミサイルで我が国を攻撃する能力をすでに有していると見られます。

ロシアの状況

ロシアは、米国と同規模の大陸間弾道ミサイル、原子力潜水艦発射弾道ミサイル、核弾頭ミサイル搭載長距離爆撃機を保有しています。一方、我が国周辺では、同国太平洋艦隊による我が国近海での演習、パトロールを頻繁に行うなど、軍事的挑発活動が活発化しています。

例えば2018年9月、ミサイル巡洋艦などの艦艇28隻が艦隊を組んで宗谷海峡を示威的に通航。冷戦終結後の通航隻数としては過去最多を記録しました。同国空軍機に対する航空自衛隊の緊急発進回数も2014年度には450回以上を数え、以降も250回を超えるなど、同国空軍機はわが国領空接近・侵犯活動を頻繁に繰り返しています。

まとめ

Jアラートはシステム運用が不完全であり、正しく機能しない場合があるのが課題と言われています。実際、消防庁が2017年9月に全国市区町村へ配布した資料でも、内閣官房や気象庁が警報を発信しても「Jアラートが起動せず」、「Jアラートは起動したが警報伝達手段が動作せず」など5事例以上の不具合発生が報告されています。これを見ると、Jアラートは発展途上のシステムと言えるでしょう。しかし近隣3国の軍事的挑発とそれによる緊張が続く限り、Jアラートの重要性は増すばかりと言えそうです。

したがって完全な運用体制の早期整備が求められるところです。同時に、民間核シェルター普及に向けた公的支援制度の整備促進も忘れてはならないでしょう。

無料見積り・ご相談はこちらCONTACT