火山災害から身を守るポイントは?国が推奨する防災対策を紹介
日本には全国に111山の活火山があり、世界有数の火山国となっています。実際、現在も桜島を始め複数の活火山で噴火が続いており、噴石、火砕流、火山灰などが火口から火山の麓へ飛び散り、火山災害も多発しています。
『令和3年版 防災白書』によると、1929年(昭和4年)から2014年(平成26年)までの85年間だけでも、死者・行方不明者を出した火山災害が7回も発生しています。では火山噴火により、具体的にどのような災害が発生するのでしょうか。
ここでは火山災害の種類、火山の監視体制と警戒レベルの内容、国の火山災害防災対策、火山災害から身を守るポイントなどを解説します。
火山災害の種類
火山災害は「火山現象(※)」として示され、主なものとして次の7種類があります。
※火山現象ː熔岩、火山灰などが地下から地表に放出されて火山岩を形成する現象と,これに関係するすべての現象のこと。
- 大きな噴石……概ね20―30cm以上の大きさがあり、火口から弾道を描いて飛散する火山現象
- 火砕流……噴火により放出された破片状の固体物質と火山ガスが混合状態となって地表を流れ下る火山現象。流速は時速百km以上で地表を流れ、温度は数百℃に達することもある
- 融雪型火山泥流……噴火により火口を覆っていた雪や氷が融けることにより発生し、さらに火山噴出物と水が混合して地表を流れ下る火山現象。流速は時速数十kmに達することがあり、谷筋や沢沿いを流れ下って遥か遠方まで流下することもある
- 溶岩流……溶けた岩石が地表を流れ下る現象。流速は火山の地形や溶岩の温度・組成により異なる。火砕流や融雪型火山泥流と異なり比較的低速で流れるケースが多い
- 小さな噴石・火山灰……直径数cm程度の大きさで、風に乗って遠方まで飛散する火山現象を「小さな噴石」と呼び、噴火によって火口から放出される固形物のうち、直径2mm未満の粒子が風に乗って遠方まで飛散する火山現象を「火山灰」と呼んでいる
- 火山ガス……火山活動により地表に噴出する高温ガスのこと。溶岩や破片状の固体物質などの火山噴出物と一体となって噴出するものを含み、「噴気」とも呼ばれる。水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分としており、火山ガスを吸引すると二酸化硫黄による気管支障害、硫化水素による中毒などを発症する可能性がある
- 火山泥流・土石流……火山噴出物と水が混合して地表を流れる火山現象を「火山泥流」と呼び、水と土砂が混合して地表を流れる火山現象を「土石流」と呼ぶ。共に流速は時速数十kmに達することがあり、噴火が終息した後も継続するケースもある
国の火山活動監視体制と防災警報・情報の種類
気象庁は本庁と管区気象台に設置した「火山監視・警報センター」により全国の活火山の活動を監視しています。
このうち「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火予知連絡会が選定した50山に対して地震計、傾斜計、空振計、GNSS観測装置、監視カメラなどの火山観測機材を装備した観測拠点を設置し、24時間体制で火山活動を監視しています。
また他の61山に対しては、火山監視・警報センターの「火山機動観測班」が定期的に現地へ登山し、火口周辺で必要な観測を行っています。
気象庁はこうした監視・観測結果の分析に基づき、噴火警報・予報、噴火速報など合計12種類の火山情報を随時発表しています。
このうち噴火警報・予報は、以下として発表しています。
- 警戒が必要な範囲が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」
- 警戒が必要な範囲が山麓の居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」
- 警戒が必要な範囲が海底火山の場合は「噴火警報(周辺海域)」
一方、火山活動のレベルが噴火警報まで至らないと判断した場合は「噴火予報」として発表しています。噴火警報・予報は次の5段階の警戒レベルに分かれています。
(1)警戒レベル5:住民全員避難
- 警報名ː噴火警報(居住地域)
- 警報内容……居住地域に甚大な被害を及ぼす恐れのある噴火が発生、あるいはその可能性が極めて高い切迫した状況にある
- 住民への勧告内容……居住地域から安全な地域へ住民全員の緊急避難が必要
(2)警戒レベル4:高齢者等の避難
- 警報名ː噴火警報(居住地域)
- 警報内容……居住地域に甚大な被害を及ぼす恐れのある噴火が発生する可能性が高まっている
- 住民への勧告内容……居住地域から安全な地域へ高齢者等の即時避難、高齢者等以外の避難準備などが必要
(3)警戒レベル3:入山規制
- 警報名ː噴火警報(火口周辺)
- 警報内容……居住地域の近くまで甚大な被害を及ぼす恐れのある噴火が発生、あるいはその可能性がある
- 登山者の勧告内容……登山禁止、入山禁止など危険な地域への立ち入り禁止
(4)警戒レベル2:火口周辺の立ち入り規制
- 警報名ː噴火警報(火口周辺)
- 警報内容……火口周辺に被害を及ぼす噴火が発生、あるいはその可能性がある
- 登山者の勧告内容……火口周辺の立ち入り禁止
(5)警戒レベル1:活火山であることに留意
- 警報名ː噴火予報
- 警報内容……火山活動は静穏。火山によっては火口内で火山灰の緩やかな噴出が見られる
- 登山者への勧告内容……特になし
国の火山災害防災対策
国が実施している火山災害防災対策として、一般に次が挙げられます。
- 火山噴火避難対策……火山噴火避難用道路の整備、海上からの避難が必要な地域の港湾整備、噴石防護用の退避壕の整備、火山周辺地域の学校・公民館などの避難施設に対する建物不燃堅牢化、噴火警報告知用行政無線の整備など
- 農林漁業被害対策……火山灰・ガスから農林水産物を守るための防災営農施設整備、防災林業経営施設整備、防災漁業経営施設整備など
- 火山灰降灰対策……市区町村が実施する市区町村道、下水道、都市排水路、公園、宅地の降灰除去事業に対する補助事業
- 火山泥流・土石流対策……崩壊山腹の緑化による土砂崩れ防止、泥流・土石流の発生・流下を抑制するための治山ダム・砂防ダム・流路工の設置、泥流・土石流を安全に流下させるための導流堤の設置など
火山災害から身を守るポイント
活火山山麓地域で生活し、事業活動をしている人たちが、火山災害から我が身を守る一般的な対策として次が挙げられます。
- 避難経路を確認しておく……地元自治体の「火山ハザードマップ」を参考に避難経路を確認しておく
- 非常持ち出し袋を常備する……火山が噴火すると避難は時間との勝負になるので、必要な身の回り品を詰めた非常持ち出し袋を常備しておく
- 自宅籠城の準備……噴火の状況によっては指定避難所へ移動するより自宅避難の方が安全なケースがあるので、それに備えて3日から1週間分の水と食料を備蓄しておく
こうした対策と共に重要なのが「火山灰対策」です。火山灰は活火山山麓地域一帯に広く降り注ぎ、しかも先端が尖っているので、火山灰に直接触れると目の充血・結膜炎・角膜剥離、喘息、耳鼻咽喉の炎症、皮膚の痒み・痛み・腫れなどの原因になるからです。
また火山灰は降り積もる量により、次の災害発生の原因になるとされています。
- 0.5cm……自動車を運転していると視界が悪くなり車がスリップしやすくなる
- 2cm……健常者でも目・耳鼻咽喉の健康被害を受けやすい
- 10cm……雨が降ると土石流が発生しやすくなる
- 30cm……雨が降ると水を含んだ火山灰の重さで木造家屋が倒壊する確率が高まる
- 50cm……火山灰の重さだけで木造家屋が倒壊する確率が高まる
- 100cm…住宅倒壊、森林壊滅などの可能性が高まる
このため外出中に火山灰が降ってきたら「密閉性の高い鉄筋コンクリート造のオフィスビルや商業ビルへ避難」し、在宅中の場合は「ドアと窓を閉め、ドアの隙間や隙間風が入る窓はテープで目張りする」などの行動と対策が不可欠と言われています。
まとめ
火山災害のうち、最も厄介なのが火山灰と言われています。粒子が細かいのでほんの僅かな隙間から建物に侵入し、建物内を灰塗れにするからです。
さらに停電、路線バス・電車・航空機の運航停止、コンピュータ・電子機器の作動不良・故障、上下水道の使用不能、生活必需品を賄うスーパーストア・コンビニエンスストアが交通・物流の途絶により営業を停止するなどの原因にもなり、生活インフラが一時的に機能不全に陥ります。
このように日常生活に甚大な被害を与える火山灰から生活と命を守るためには、家庭用の火山災害防災シェルターが必要との認識が深まっています。噴石だけではなく、火山灰を完全シャットアウトし、水・食料備蓄、その他必要な装備が揃い、火山灰の降灰が止み、生活インフラが復旧するまでの7―10日を安全に過ごせる家庭用防災シェルターの製品開発と普及が待たれるところと言えます。